以下は2003年11月27日に社団法人電気学会の回転機研究会において弊社社長が発表した内容です。

 ハイブリッド磁石を利用したSRモータの開発

1.はじめに

 近年のモータ開発は小型化、高精度化、高トルク化、省エネ化など多岐にわたっている。特に、低消費電力で高トルクのモータの開発は、限られた電気容量のバッテリーで駆動する電動自転車、電動バイク、電動車椅子などの動力源として、あるいは工作機械、ロボットなどの動力源として広範囲な利用が期待できる。

 従来、これらに用いられていたモータは永久磁石を用いたモータで、永久磁石を界磁用として主磁極に用いており、駆動力をローレンツ力に起因している。よって、従来の小型直流モータやハイブリッド型ステッピングモータなどは磁界の強さを加減できない。そこで、近年ロータにコイルも永久磁石も使用しないSRモータが、安価で小型・軽量、高速でしかも大トルクで可変運動ができることから開発が盛んに行われている。

 本開発では、永久磁石と電磁石を組み合わせたハイブリッド磁石をこのSRモータに利用することによって、より強力なHBSRモータを開発した。

2. ハイブリッド磁石の構造

 図1に本開発でHBSRモータに採用したハイブリッド磁石の概略図を示す。ハイブリッド磁石は永久磁石(Nd・Fe-B系)、バックヨーク部(工業用純鉄もしくはケイ素鋼板)、励磁用コイルで構成されている。

 ハイブリッド磁石の動作原理は、励磁用コイルに電流を印加しないとき、図1のバックヨーク部及び永久磁石からなる磁気回路は閉磁路を構成しているので、磁束は図1の実線で示すような閉磁路となり空隙内に磁界がほとんど発生しない。従って、図1の可動磁性部材との間に吸引力を発生しない。

 つぎに、励磁用コイルに電流を印加した場合を考えてみると、バックヨーク部内の磁束方向は図1の一点鎖線の方向となる。これは、励磁コイルの起磁力による磁束方向は、永久磁石による保持力の磁束方向とは逆である。このとき、永久磁石の持つ磁束はバックヨーク部内では、励磁コイルの起磁力による磁束によって、磁束の方向が曲げられるためである。

 これを磁路の構成が直感的に見て取れるパーミアンス法を用いて等価回路に示すと図2のようになる。ただし、

F:永久磁石起磁力発生源

F:電磁石起磁力発生源

R,R,R:鉄心磁気抵抗

R;空隙部分の磁気抵抗

R;永久磁石の磁気抵抗

φ1;永久磁石からの磁束

φ2;電磁石からの磁束

φ3;可動部を通過する磁束

とする。

 ここで、図2の等価回路は励磁用コイルと永久磁石は並列回路となり、キルヒホッフの法則から磁性部材に流れる磁束は以下の式(1)で示される。

φ3=φ1 十 φ2 ・・・(1) 

 このことは、永久磁石の磁束の方向は空隙部を介して磁性部材の方向となり、磁性部材を通過する磁束は、永久磁石の磁力、(φ)と励磁用コイルの起磁力(φ)が重畳されることを示す。ここで、図1の磁性部材は負荷となり、その負荷に励磁用コイルと永久磁石の磁束が流れることが分かる。

 また、その吸引力は、

F=φ32 /2μS3・・・(2)

に代入することによって、ハイブリッド磁石の吸引力を近似的に求めることができる。

 また、磁性部材を密着させた状態のとき、その吸引力が引っ張り試験の結果、同一寸法の電磁石に対して約3.5倍を測定できたことは以前に報告されている。(図3)

3. ハイブリッド磁石の磁場解析

 本開発では、ハイブリッド磁石の励磁用コイルから発生する起磁力によって、ハイブリッド磁石内の磁束の変化を詳細に知るため、FEMを用いた磁場解析を行った。本解析は、(株)CRCソリューションズの磁場解析ソフトMAGNAを用いた。また、解析モデルについてはハイブリッド磁石の左右対称性から2分の1モデルでの解析を行い、永久磁石の効果を確認するため、永久磁石部分の材料特性を空気とした励磁コイルのみ場合についても解析を行った。

また、本解析モデルの材料特性は、永久磁石を希土類磁石(Nd・Fe-B系)、BHMAX40、Br1.35[T]、磁性部材を、鉄(Fe)とし、励磁用コイルは210ターンとした。空隙部については、0.2、0.5、1.0【mm】について行ったが、ここでは0.2【mm】時についてのみ、その解析結果を示す。

 図4にハイブリッド磁石ならびに励磁コイルのみ(w/omagnet)の場合について励磁電流を0[A]、2[A]、4[A]としたときの解析結果を示し、図5に励磁用コイルへの電流値と空隙部の磁束密度の関係を示す。

 解析結果を比較すると、励磁コイルに励磁していない場合(0[A]時]でも、本解析モデルではハイブリッド磁石内の永久磁石の磁束が可動磁性部材に若干漏れていることが確認できる。これは、本解析モデルのハイブリッド磁石形状が最適形状ではないことを示している。主な要因として、永久磁石の残留磁束密度に対して、バックヨーク部磁性部材の断面積が小さく、飽和状態となっていることがあげられる。

 また、励磁コイルに電流を印加していった場合、ハイブリッド磁石は永久磁石の磁束とともに励磁用コイルの起磁力による磁束が可動磁性部材を通過する閉磁路を構成していることがわかる。また、図5より永久磁石の磁束によって作用面に高い磁束密度を空隙部に発生するとともに、励磁用コイルの印加電流によって、永久磁石の磁束を調整できることが分かる。

3.HBSRモータの構造

 通常SRモータは、固定子に配置された電磁石を順に励磁することで回転子に面した各突極にN極、S極を作り、磁性部材でできた回転子磁極を引き付けることによって回転させる。HBSRモータは、この電磁石部分をハイプリッド磁石に置き換えたモータである。ただし、ハイブリッド磁石は、作用面にN極、S極両方の磁極を備える構造となっている。そこで、HBSRモータでは、固定子側の1つの突極に両極を備えた構造となる。また、HBSRモータの磁界は、回転子の回転方向と垂直の磁界を構成し、回転子磁極を引き付けることで回転する。3相インナーロータタイプのHBSRモータについて構成図の1例について簡略化したものを図6、外観を図7に示す。

4.HBSRモータの静特性

 図8は、静止トルク測定用に1相分のみを突極角30.0°にて作成した試作機、図9は、3相8極アウターロータ、突極角22.5°で製作した試作HBSRモータに対して、0.5[A]毎の角度に対する静トルク特性を示したものである。また、図8の試作機については、永久磁石を取り除いた状態(w/o magnet motor)での測定も行った。これらの図から角度に対するトルク変化が少なくなっていることが分かる。この現象はHBSRモータの特徴の一つであり、従来SRモータの問題点であったトルクリップルを解消することができるのではないかと考えることができる。

5. HBSRモータの動特性

 図10は、3相試作HBSRモータとそのモータから磁石を取り除いたモータ(w/o magnet motor)について電流に対するトルクを示したものである。図の特性は、両モータともほぼ直線になっている。ここで、両モータのそれぞれのトルク定数を比較すると、HBSRモータは、40[mNm/A]、一方は、27[mNm/A]となっており、HBSRモータのトルク定数は、磁石を抜いたモータに比べ、約1.5倍となっており、ハイブリッド磁石の効果が動特性にも反映されている。

 HBSRモータのN・T特性について、図11に示す。ただし、N・T特性の測定は、トルク検出器に(株)小野測器のSS-050、また負荷装置には微小トルク時にも正確にトルクを測定できるよう渦電流を利用した負荷装置を使用した。

6. 結論

 本開発では、ハイブリッド磁石の性能について解析、分析を行うとともに、ハイブリッド磁石をSRモータに利用して、様々な実験機ならびに試作モータの設計・製作を行った。その結果、HBSRモータは高トルクが得られることを実証することができた。

 また、試作HBSRモータにて、最高効率90%(駆動回路込み)を実測するとともに、回転数・トルクに対して広範囲に高効率を実現できる可能性を見出した。

 今後の課題としては、HBSRモータについて詳細な磁場解析を行い、高トルクという利点を最大に生かせるようにするとともに、量産に向けた設計、また、駆動回路の最適化を行う。